“きっと 聖闘士になって帰ってくる”
“立派な画家になるために絵を描き続ける”
君がこの地を離れるときにしたふたりの約束。
僕はその約束通り今日も筆を動かす。
あの約束から僕は数えきれないほどの絵を描いてきた。
草、木、花、動物、孤児院のみんな。
筆を動かしているときは、キャンバスと被写体…それだけで頭がいっぱいになって、“寂しい”とか“悲しい”感情は全て忘れることが出来た。
だから最初は“約束だから”というよりは、己の心に空いた穴を埋めるようにキャンバスに向かっていた。
いつからか
僕が絵を描いたものは死滅するようになった。
筆を動かす度にひとつ、またひとつと命が消えていく。
僕は絵を描くのが怖くなった。
もうやめてしまおうと、筆を折ろうとしたこともあった。
そんなとき、自室に置いたままの幼い君がじっと僕を見つめてくる。
“約束しただろ、アローン”
そう言いたそうに。
そうだ、これは“約束”なんだ。
君と僕とのたったひとつの約束。
君はきっと約束を果たしてくれるだろう。
だから、僕も約束を果たさなきゃ。
たとえ僕の絵が命を奪うものだとしても。
僕は絵をやめるわけにはいかない。
君が聖闘士になって帰ってくるまで、何百枚でも何千枚でも
筆が折れても手が折れても
ずっと
ずっと
ずっと描こう
“約束”だから。
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